開業志向ゼロの外科医が「組織で挑む」在宅医療を選んだ理由とは?医師の新しいキャリアパス

開業志向ゼロの外科医が「組織で挑む」在宅医療を選んだ理由とは?医師の新しいキャリアパス

「将来、開業すべきか、勤務医を続けるべきか…」

多くの医師が、キャリアの岐路で一度はそう自問するのではないでしょうか。安定した環境で医療に専念したい、しかし、より主体的に理想の医療を追求したいという想いも捨てがたい。

今回ご紹介するのは、かつて外科医として「病気を治す」ことに情熱を注ぎ、開業など全く考えていなかった一人の医師、入江真大先生の物語です。

彼は今、岡山県で「はれのくに在宅クリニック 杜の街」の院長として、重度訪問介護事業者と手を携え、新しい形の在宅医療に挑戦しています。なぜ彼は、安定した外科医のキャリアを手放し、在宅医療の道へ進んだのか。そしてなぜ、リスクの高い個人開業ではなく、「組織との協働」という第3の道を選んだのか。

この記事では、入江院長の講演内容を基に、多くの医師が抱えるキャリアの悩みと、その先にある新しい可能性を探ります。在宅医療に興味のある方、今の働き方に疑問を感じている方、そして開業に踏み出せないでいる全ての医師にとって、きっと新たな視点が得られるはずです。


病院勤務か在宅医療か、医師のキャリア選択を表すイメージ

なぜ開業に否定的だったのか?多くの勤務医が抱える「4つの壁」

かつての入江院長がそうであったように、多くの勤務医は開業に対して漠然とした不安を抱えています。講演で語られた「開業したくなかった理由」は、多くの医師が共感するのではないでしょうか。

  • 経営への不安: 「資金調達や事業計画、黒字化なんて自分にできるだろうか…」医療のプロではあっても、経営のプロではありません。そのスキル不足に自信が持てないのは当然です。
  • 24時間拘束への恐怖: 「自分が倒れたら終わり」。特に在宅医療では24時間対応が求められる場面も多く、個人の力だけで維持することへのプレッシャーは計り知れません。
  • 雑務の山: トラブル対応、人事、労務…診療以外のあらゆる責任が院長一人にのしかかります。医療に集中したいという想いとは裏腹な現実に、二の足を踏んでしまいます。
  • 出口戦略の不在: 「後継者はどうするのか?将来、クリニックをどう閉じるのか?」先の見えない不確実性も、大きな不安材料です。

「今の収入や休日に不満はない。わざわざリスクを冒してまで経営者になりたくない」――。これは、多くの勤務医が抱く偽らざる本音でしょう。


「治す」から「支える」へ。外科医が感じた病院医療の限界

入江院長の価値観が大きく変わる転機は、キャリアの途中で経験した多様な医療現場にありました。肺移植の研究に打ち込み、「病気を治す」ことこそが正義だと信じていた若き外科医は、ハンセン病療養所や離島、長期療養型病院で、ある現実に直面します。

それは、「治す」だけでは救えない患者さんがいるという事実でした。特に病院勤務医として痛感したのは、医療システムの限界です。

  • 「退院できない」現実: 手術は成功したのに、介護力不足で家に帰れない。
  • 制度の分断: 医療と介護が縦割りで、スムーズな連携ができない。
  • 対象疾患の限界: 脳卒中後遺症や神経難病など、「完治」しない病への無力感。
  • リソースの欠如: 医師一人では、院外の生活環境まで手が出せない。

「医師の仕事は、患者の生活の一部でしかない」。この気づきが、入江院長の目を「院内」から「地域」へ、そして「治す医療」から「生活を支える医療」へと向けさせました。在宅医療への関心は、この価値観の転換から生まれたのです。


運命の出会いと「第3の選択肢」。重度訪問介護との連携

在宅医療の可能性を感じながらも、個人での開業には踏み切れずにいた入江院長。そんな彼の運命を変えたのは、地域での地道なネットワーク作りと、偶然の出会いでした。

嚥下や摂食に関心のある専門職との交流を深める中で、「医療的ケアに積極的な介護分野の方」を求めるようになります。そして、保育園のイベントで偶然出会ったのが、全国で重度訪問介護事業を展開する「株式会社土屋」の高浜代表でした。

「障害があっても地域で暮らせる社会」の実現を目指す理念に深く共感した入江院長は、個人開業でもなく、勤務医でもない「組織的開業」という第3の選択肢を見出します。これは、理念とビジョンを共有する組織のリソースを活用し、ソーシャルビジネスの手法で社会課題を解決していくという、新しいモデルです。

多職種チームで患者を支える在宅医療のイメージ

雇われ院長のリアル。メリットとデメリット

「組織的開業」とは、具体的にはどのような働き方なのでしょうか。入江院長は「雇われ院長」のリアルを、メリット・デメリットの両面から率直に語ります。

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ポイント:「開業か勤務医か」の二択ではなく、理念を共有する組織と連携する“第3の選択肢”がある。

【メリット】

  • 資金リスクゼロ: 開業資金の準備は不要。個人の借金もありません。
  • バックオフィス支援: 人事、経理、法務、マーケティングは本部の専門家が担当。
  • 即戦力と危機管理: グループの信用力で優秀な人材を採用でき、トラブル時も組織の知見でバックアップ。
  • 医療への集中: 経営雑務から解放され、患者と向き合う時間に専念できます。
  • 目標設定の自由: 収益だけでなく、社会的使命(ミッション)を追求できます。

【デメリット】

  • 意思決定のスピード感: 最終決定権は本部にあるため、調整に時間がかかることも。
  • 報酬の限界: 個人開業医ほどの青天井な高収入は期待できません(安定とのトレードオフ)。
  • 組織文化への適応: 医師中心主義ではなく、多職種へのリスペクトが必須。

「でも、私はこの選択を後悔していません」と入江院長は断言します。デメリットを補って余りある「医療に集中できる環境」と、個人では決して実現できない規模の社会貢献が可能になるからです。


NEXT在宅ケアへの挑戦。組織で実現する未来の医療

組織と協働する最大の強みは、個人では超えられない「制度の壁」を突破できることです。

例えば、技術的には可能でも介護職には認められていない医療行為(PTEGなど)の問題。医療(クリニック)と福祉(介護事業者)が一体となることで、スムーズな連携とタスクシフトを実現し、制度の隙間に落ちてしまう患者をチームで救い上げることができます。

はれのくに在宅クリニックでは、さらにその先を見据えています。

  • テクノロジー活用: DX・AIを推進し、業務効率化によって「人へのケア」の時間を創出。
  • 全国ネットワーク: 岡山だけでなく、全国のグループ拠点と連携し、知見を共有。
  • 専門チームとの連携: 医療的ケア児や強度行動障害など、高難度なケアチームと即時連携。

「重要なのは『何を実現したいか』。開業は手段であって目的ではない」
「一人では超えられない壁も、チームなら超えられる」


まとめ:あなたの「理想の医療」を、誰と実現しますか?

外科医から在宅医へ。そして、個人プレーからチーム戦へ。入江真大先生のキャリアは、「開業か、勤務医か」という二者択一の問いに、「理念を共有できる組織との協働」という新しい答えを提示してくれました。

もしあなたが今のキャリアに悩み、理想の医療の実現方法を模索しているなら、一度立ち止まって自問してみてください。

「自分は、どんな医療を実現したいのか?」
「そのために、誰と手を携えるべきか?」

その答えの先に、あなたの「NEXT在宅ケア」があるのかもしれません。

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