食道瘻(PTEG)とは?胃瘻との違い・メリット・在宅での実際をわかりやすく解説

食道瘻(PTEG)とは?胃瘻との違い・メリット・在宅での実際をわかりやすく解説

「胃瘻造設を提案されたけれど、解剖学的な事情で『胃瘻は難しい』と医師から告げられた」―退院支援の現場で、ご家族からそんなお話をうかがうことがあります。栄養を口から摂れなくなったとき、医療現場で第一選択となるのは胃瘻(PEG/経皮内視鏡的胃瘻造設術)です。しかし、過去の手術歴や解剖学的な条件によっては、PEGの造設が困難と判断される方もいらっしゃいます。

PEGの造設が困難と判断された場合に、その代替手技として適応となるのが、PTEG(食道瘻/経皮経食道胃管挿入術)です。PEGとPTEGは「ご家族が選ぶ並列の選択肢」ではなく、保険制度上は「PEGが原則/PEGが困難な場合にPTEGの適応がある」という位置づけにあります。

本コラムでは、「胃瘻は難しい」と告げられたご家族に向けて、代替手技としてのPTEGがどのような手技なのか、PEGとどう違うのか、在宅での管理はどう行われるのかを、医療者の立場からやさしく整理しました。岡山では、はれのくに在宅クリニック杜の街の院長 入江真大が、日本PTEG研究会幹事として、PEG困難例の方のPTEG造設・在宅管理に携わっています。

食道瘻(PTEG)とは?PEGが困難なときに適応となる手技

食道瘻(PTEG)は、Percutaneous Trans-Esophageal Gastro-tubing の略で、日本語では「経皮経食道胃管挿入術」と呼ばれます。難しく聞こえますが、要は「首の横から食道へ細い管を通し、その先を胃まで届けて栄養を送る方法」とご理解いただければ大丈夫です。

PTEGの保険制度上の位置づけ:PEGの代替手技

まず大切な前提として、PTEGはPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)の代替手技として位置づけられています。経管栄養が必要となった場合の第一選択はPEGであり、解剖学的な理由などでPEGの造設が困難または不可能と判断された場合に、PTEGの適応が検討されます。

つまり、ご家族が「PEGかPTEGか」を選ぶ場面は基本的にありません。担当医師がご本人の身体の状態を診て、PEGが可能であればPEG、PEGが困難であればPTEGの適応を検討する、という流れになります。

PTEGは「首から食道へチューブを通す」経管栄養の方法

PTEGでは、首の左側の皮膚から食道へ向けて穴をあけ、そこに細いチューブを通します(標準手技として頸部左側からのアプローチが用いられます)。チューブの先端は食道を経由して胃まで届き、栄養剤・水分・内服薬を注入できる状態になります。

挿入時は局所麻酔で行うことが多く、超音波で頸部の血管や神経の位置を確認しながら、安全な経路を選んで処置を進めます。所要時間は症例により異なりますが、おおむね30分から1時間程度で終わるのが一般的です。

PEG(胃瘻)との「通り道」の違い

PEG(胃瘻)は、お腹の皮膚から直接胃に穴をあけてチューブを通します。一方PTEGは、首の皮膚から食道を経由して胃まで管を届けます。つまり最終的に栄養が届く場所は同じ「胃」ですが、そこに至るまでの通り道がまったく違うのです。

この違いがあるからこそ、お腹を経由できない方――過去の手術歴や腹水、解剖学的な事情によりPEGの造設が困難な方――に対しても、PTEGによる経管栄養の確保が可能になります。

なお、PTEGは1994年に大石英人医師(東京女子医科大学)を中心に考案・開発された、日本発の医療技術です。PEG困難な方への代替手段として、臨床応用が進んできました。


PEG(胃瘻)が困難になる典型的なケース

「PEGが難しい」という言葉は、医師から見ると明確な医学的根拠のある判断です。ご家族にとっては「では、もう諦めるしかないのか」と聞こえてしまいがちですが、医師の側ではPEG以外の手技(PTEGや中心静脈栄養など)の適応を検討するべきタイミングを意味することが多いのです。

PEGの造設が困難と判断される代表的な3つのケース

PEGの造設が困難と判断される代表的な状況は、おおむね次の3つです。

  • ①過去にお腹の手術歴がある場合:胃の切除歴・開腹手術歴があると、胃の位置が変わっていたり、腸が癒着していたりして、安全に針を通せないと判断されることがあります。
  • ②腹水・著しい肥満・胃の位置異常がある場合:腹水が溜まっていると、お腹の壁と胃の間に水の層ができ、PEG造設が困難になります。
  • ③咽頭・食道に閉塞があり、内視鏡を口から通せない場合:PEGの造設は内視鏡を用いて行うのが標準のため、食道がんなどで内視鏡が通らないと、この方法が選べません。

PEGが困難なまま放置すると、ご本人とご家族に何が起きるか

PEGが選べないとき、現場で起きるのは「経鼻胃管のまま在宅に戻る」「中心静脈栄養で長期管理する」という流れです。どちらも医学的には成立しますが、経鼻胃管は鼻と喉の違和感が常にあり、認知症のある方では無意識に抜いてしまうことがあります。中心静脈栄養は感染リスクがあり、ご家族の心理的な負担も小さくはありません。

「PEGが困難」と告げられた段階で、PTEGの適応が検討対象に上がるかどうかは、ご本人のその後の生活を大きく左右します。だからこそ、ご家族としても「PTEGという代替手技がある」という事実を知っておくことに意味があります。

PTEGなら対応できる、解剖学的な背景

PTEGは首の左側から食道にアプローチするため、お腹の状態の影響を受けません。手術歴のある方、腹水のある方、胃の位置異常のある方にも、頸部の解剖学的条件が満たされれば造設できます。ただし、頸動脈や甲状腺の位置によっては難しい場合もあり、事前の超音波評価とPTEGに精通した医師の適応判断が欠かせません。


PEGが困難と判断された場合のPTEGの特徴

PEGの造設が困難で、PTEGの適応が検討されることになった場合に、ご家族として知っておきたい特徴を整理します。これは「PEGとPTEGを比較してメリットを論じる」ものではなく、PEG困難例においてPTEGが選ばれる医学的な理由として理解していただけたら幸いです。

PEG困難例におけるPTEGの利点

  • 経鼻胃管の長期化を避けられる:PEGが困難なケースで経鼻胃管を長期間続けると、鼻翼の潰瘍や自己抜去のリスクが生じます。PTEGはこうした経鼻胃管の課題から解放される手段となります。
  • 造設時の身体的負担が比較的軽い:局所麻酔で実施することが多く、全身麻酔が困難な高齢者や全身状態の不安定な方にも適応しやすい処置です。
  • 嚥下リハビリと組み合わせられる可能性がある:PTEGはチューブが食道の上部から入っているため、経鼻胃管のように嚥下の邪魔にならず、嚥下機能のリハビリと組み合わせて「口からも少しずつ食べる」アプローチが取りやすい構造です(適応はご本人の嚥下機能の評価次第です)。

PTEGに伴う注意点

  • 対応できる医療機関がまだ限られている:PEGに比べてPTEGを実施・管理できる施設は少なく、地域によっては適応があっても提示されにくい現状があります。
  • 胃瘻と比較してチューブの内径が細い:胃瘻と異なり粘稠度の高い栄養剤の使用に制限があります。
  • 首にチューブの出口がある:見た目や衣服との接触への配慮が必要です。多くの場合は襟元で覆える位置にあります。

これらを踏まえると、PTEGは「PEGが困難な方にとって、経管栄養を在宅でも継続できる重要な代替手技」という位置付けが見えてきます。


在宅でのPTEG管理は、どのように行われるのか

「PTEGは特殊な処置だから、在宅では管理できないのでは」というご質問をよくいただきます。実際には、訪問診療と訪問看護がチームで関わることで、ご自宅での管理は十分に可能です。

日々の注入とチューブケアの基本

栄養剤の注入は、PEGと基本的な手順が変わりません。決まった時間に栄養剤と水分を注入し、注入後はチューブ内を白湯でフラッシュしてチューブの詰まりを防ぎます。首の出口部分は1日1回程度、ぬるま湯で洗浄し、皮膚の状態を観察します。発赤や滲出液、痛みがある場合は早めに訪問看護師または訪問診療医に連絡していただく流れです。

チューブ交換と役割分担

PTEGのチューブ交換は、使用するチューブの種類やご本人の状態に応じたタイミングで、PTEG管理に習熟した医師がご自宅もしくは外来で実施します。在宅管理では、訪問診療医が定期的な状態評価とチューブ交換を、訪問看護師が日々の観察・指導と出口部のケアを担い、ご家族には日常の注入と観察をお願いする形が一般的です。ケアマネジャーが介護サービス全体の調整役を担います。

最初はご家族も不安が大きいものですが、訪問看護師が繰り返し手技を一緒に確認しながら、ご家族のペースで取り組めるようサポートします。

トラブルが起きたときの相談先

チューブの詰まり、抜けかけ、出口部の発赤、注入後の嘔気など、起こり得るトラブルはいくつかあります。在宅医療では24時間の連絡体制を整えているクリニックも多く、夜間や休日でも電話相談ができる仕組みになっています。「困ったときに、すぐに相談できる先がある」――これが、ご家族にとって大きな支えになります。


「PEGが困難」と判断されたとき、ご家族が知っておきたいこと

実際に「PEGが難しい」と病院の主治医から告げられたとき、ご家族の中には「自分たちで何かを判断しなければいけないのでは」と焦りを感じる方もいらっしゃいます。ただ、覚えておいていただきたいのは、経管栄養経路の判断は基本的に医療者側の領域だということです。ご家族の側でできることは限られていますが、その「限られた範囲」を知っておくことが、安心にもつながります。

経管栄養経路の判断は、医療者の領域

PEG・PTEG・中心静脈栄養のうち、どの手技が適応となるかは、ご本人の解剖学的条件や全身状態をもとに、担当医師が判断します。ご家族が「PTEGにしてください」「PEGはいやです」と希望を伝えるべき場面ではありません。

ご家族の側でできるのは、「PEGが困難と告げられたあと、医療チーム内でどのような代替手技が検討されているか」「PTEGも検討対象に含まれているのか」を、退院支援室や担当の医療ソーシャルワーカー(MSW)に確認することです。これは「指示」ではなく「対話」のレベルでの確認です。

退院支援チームとの対話で確認しておきたいこと

退院前のカンファレンスや、MSWとの面談の場で、ご家族が確認しておくと安心な観点をいくつか挙げます。

  • 現在の栄養経路の方針:いまどのような経路で栄養を入れているか、今後どうしていく方針か
  • PEGの可能性とその判断理由:PEGが選ばれていない/困難と判断されている場合、その医学的理由
  • 代替手技の検討状況:PEG以外の経管栄養経路(PTEG・中心静脈栄養など)が検討されているか
  • 在宅移行後の医療体制:選ばれた手技を在宅で管理できる訪問診療医・訪問看護ステーションがあるか

ご家族にできる、もう一つの大切なこと

医療経路の判断は医療者側に委ねつつ、ご家族には、ご家族にしかできない大切な役割があります。それは「ご本人の生活と価値観を、医療チームに伝えること」です。

元気だった頃のご本人が、食べることをどう考えていたか。どんな日常を大切にしていたか。これからの療養生活に何を望むか――こうした情報は、医師にもMSWにも見えないご家族の領域です。経管栄養経路の判断にも、その後の在宅生活の組み立てにも、ご家族の言葉は大きな意味を持ちます。


知っておきたい、PTEGをめぐる制度的課題

PTEGはPEG困難例にとって重要な代替手技ですが、医療提供体制と制度の面では、まだ課題が残されています。

PTEGに対応できる医療機関は、PEGに比べて全国的にまだ少ないのが現状です。「PEGができない方にはPTEGという代替手技がある」という情報そのものが、退院支援の場でご家族に届きにくい構造があります。

また、経管栄養を継続するうえでは、日々の注入や口腔ケアを誰が担うかという問題があります。在宅では訪問看護師やご家族が中心になりますが、施設や事業所での実施範囲については、制度的な議論が現在も続いている領域です。当事者や医療者から「現場の実情に合わせた制度の見直しが必要ではないか」という声が上がり始めており、今後の動向に注目したいところです。


岡山で食道瘻(PTEG)に対応する在宅クリニック

「PEGが難しいと言われた。岡山でPTEGに対応している先生はいるのだろうか」――そうお調べになっているご家族へ。

はれのくに在宅クリニック杜の街は、2025年10月に岡山市北区下石井に開院した訪問診療専門のクリニックです。一般的な高齢者中心の在宅医療に加えて、PEG・PTEG・人工呼吸器・気管切開といった医療依存度の高い患者様の在宅管理に対応しています。対応年齢は1歳から100歳までと幅広く、岡山市中心部および周辺地域が対応エリアです。

院長の入江真大は、岡山大学医学部卒業後、呼吸器外科医として肺移植などの高度外科医療に従事してきました。慢性期病棟や長島愛生園での勤務を経て在宅医療の道に進み、2025年10月に当院を開院しています。PTEGに関しては、日本PTEG研究会の幹事として、PEG困難例の方のPTEG造設・在宅管理に携わっています。

ご相談は、患者様ご本人・ご家族からはもちろん、病院の地域連携室・MSW、ケアマネジャー様からも承っております。「PEGが難しいと言われ、PTEGも含めて検討中」「退院前のカンファレンスに参加してほしい」など具体的なご相談から、「まずは話を聞きたい」という段階のご相談まで、お気軽にお寄せください。


さいごに

「PEGが難しい」と告げられた段階で、PTEGという代替手技の存在を知っておくこと――それは、ご本人にとっての最善の医療を、医療チームとご家族で一緒に探していくための、大切な情報の一つです。

経管栄養経路の最終的な判断は医療者の領域ですが、その判断の背景や選択肢の幅を知っておくことで、ご家族は安心して医療チームに任せ、そしてご家族にしかできない「ご本人の生活と価値観を伝える」役割に集中することができます。

困ったときに相談できる先があるという安心感を、ご家族と一緒に育てていけたらと思っています。

【参考情報・出典】

※本コラムは2026年5月時点の情報を基にしています。医療制度や対応医療機関の状況は変動するため、最新情報は各機関にご確認ください。

監修:入江 真大(いりえ まさひろ)

はれのくに在宅クリニック杜の街 院長/一般社団法人土屋雉翔会 代表理事。岡山大学医学部卒業後、呼吸器外科医として高度外科医療に従事。慢性期病棟では胃瘻造設・気管切開・人工呼吸器管理を数多く経験し、食道瘻(PTEG)の手術実績も持つ。2025年10月にはれのくに在宅クリニック杜の街を開院。外科的処置・経腸栄養管理・人工呼吸器管理など医療依存度の高い患者にも対応し、1歳から100歳まで幅広い年齢層の訪問診療を行っている。食道瘻の制度改善に向けた多団体連携や、NPO法人設立を通じた地域共生社会の実現にも取り組んでいるドクター紹介はこちら